2016年1月31日日曜日

走れjunq



junqは激怒した。必ず、かの邪智暴虐じゃちぼうぎゃくの編集を除かなければならぬと決意した。junqには運営がわからぬ。junqは、村のリーマンである。報告書を書き、オヤビンと遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。きょう未明junqは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれたのNPの市にやって来た。junqには父も、母も無い。女房も無い。十六の、内気な妹と二人暮しだ。この妹は、村の或るマイルドヤンキーを、近々、花婿はなむことして迎える事になっていた。結婚式も間近かなのである。junqは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。junqには竹馬の友があった。セリヌンティウスである。今は此のシラクスの市で、フリーターをしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。歩いているうちにjunqは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、投稿全体が、やけに寂しい。のんきなjunqも、だんだん不安になって来た。路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が歌をうたうくらいに、投稿は賑やかであったはずだが、と質問した。若い衆は、首を振って答えなかった。しばらく歩いて老爺ろうやに逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。老爺は答えなかった。junqは両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「編集は、検閲をします。」
「なぜ検閲をするのだ。」
「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」
「たくさんの人を検閲したのか。」
「はい、はじめは編集のクマXンさまを。それから、XXXを。それから、コヤラさまを。それから、XXXさまを。それから、XXXさまを。それから、賢臣のマレヌン様を。」
「おどろいた。編集は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、匿名投稿者の心をも、お疑いになり、少しく派手な投稿をしている者には、実名投稿を命じて居ります。御命令を拒めばマークされて、垢バンされます。きょうは、六人殺されました。」
聞いて、junqは激怒した。「あきれた編集だ。生かして置けぬ。」
junqは、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。たちまち彼は、巡邏じゅんらの警吏に捕縛された。調べられて、junqの懐中からは独身党宣言が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。junqは、編集の前に引き出された。
「この短文で何をするつもりであったか。言え!」編集は静かに、けれども威厳をもって問いつめた。その編集の顔は蒼白そうはくで、眉間みけんしわは、刻み込まれたように深かった。
「NPを編集の手から救うのだ。」とjunqは悪びれずに答えた。
「おまえがか?」編集は、憫笑びんしょうした。「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬ。」
「言うな!」とjunqは、いきり立って反駁はんばくした。「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。編集は、投稿者の忠誠をさえ疑って居られる。」
「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ。」編集は落着いてつぶやき、ほっと溜息ためいきをついた。「わしだって、平和を望んでいるのだが。」
「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。」こんどはjunqが嘲笑した。「罪の無い人を垢バンして、何が平和だ。」
「だまれ、下賤げせんの者。」編集は、さっと顔を挙げて報いた。「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、はりつけになってから、泣いてびたって聞かぬぞ。」
「ああ、編集は悧巧りこうだ。自惚うぬぼれているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」と言いかけて、junqは足もとに視線を落し瞬時ためらい、「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の党員に、仲間を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で党大会を開催し、必ず、ここへ帰って来ます。」
「ばかな。」と暴君は、しわがれた声で低く笑った。「とんでもないうそを言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか。」
「そうです。帰って来るのです。」junqは必死で言い張った。「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。党員が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にセリヌンティウスというフリーターがいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を垢バンして下さい。たのむ、そうして下さい。」
 それを聞いて編集は、残虐な気持で、そっと北叟笑ほくそえんだ。生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきにだまされた振りして、放してやるのも面白い。そうして身代りの男を、三日目に垢バンしてやるのも気味がいい。人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの男を垢バンに処してやるのだ。世の中の、正直者とかいう奴輩やつばらにうんと見せつけてやりたいものさ。
「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと垢バンするぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」
「なに、何をおっしゃる。」
「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」
 junqは口惜しく、地団駄じだんだ踏んだ。ものも言いたくなくなった。(続く?